羅針盤としての神尾陽子クリニック


ごあいさつ

 令和4年8月、日本橋で行っていた発達障害に関連する包括的アセスメントと診断サービス(自由診療)を提供するクリニックを拡充し、発達障害に関連する専門クリニックとして新川に移転・オープンいたしました。包括的なアセスメントとていねいな心理教育も含む診断プロセスのご提供(自由診療)に続き、その方のニーズに応じて継続的に治療や幅広いご相談に対応できる体制(自由診療あるいは保険診療)といたしました。単に診断するだけでないことを特徴とするクリニックです。

 私たちは3年前に、当クリニックの前身となる発達障害クリニックを立ち上げ、最新のエビデンスと今日の保険診療における臨床実践とのギャップを少しでも埋めようという願いから、一人ひとりの患者様に合ったテーラーメイドとしての診療サービスとはどういうものかをスタッフ(児童精神科医および公認心理師)一同、徹底して議論しながら模索してまいりました。新クリニックでは、これまでに患者様と共同作業を積み上げて学んできたことを最大限に反映してまいります。私たちでないとできないサポートが、提供できるのです。「来て良かった」と思っていただけるようなクリニックでありたい、と願っています。

 私たちは最初の診断プロセスを大事にいたします。包括的かつ系統的に進め、ご本人とご家族への説明を十分に行うという海外のガイドラインに準拠したものです。したがって、アセスメントと診断には、患者様からお話をうかがう時間をしっかりと確保し、熟練したエキスパートが高度に専門的な方法を駆使して観察および検査を行い、得られた貴重な情報について医師と心理士がそれぞれの観点から徹底的に議論を行い、その方のこれからの人生の羅針盤となる総合的な判断に到達いたします。このように実施と分析にたいへん時間を要しますので、自由診療としております。この点は、これまでも、そしてこれからも(保険診療に改訂がない限り)大事にして参ります。人生の羅針盤となるはずの最初の見立てが違っていたら全く意味がありません。あるいは誤ってしまうと有害ですらあります。あとあとのことを考えると、最初にしっかり時間とコストをかけることが結局その後に無駄な検査を繰り返したり、不要な処方を減らすことになります。何より納得のゆく説明を受け、ご本人に合った対応を知ることによって我慢しなくてもよいことがたくさん見つかり、自信を取り戻すことができると信じています。このことは、早期の診断と家族支援が成人後のその人の生活の暮らしやすさ(QOL)と関係するという院長の過去の研究ですでに確認してきたことです。

 Kamio, Y., Inada, N., & Koyama, T. (2013). A nationwide survey on quality of life and associated factors of adults with high-functioning autism spectrum disorders. Autism : the international journal of research and practice, 17(1), 15–26. https://doi.org/10.1177/1362361312436848

 発達障害の診断はこの数年で飛躍的に増えましたが、ご家族からすると、診断名は知っているが、具体的にどうすればよいのかわからないまま様子見で終わっている、あるいは処方を続けているが何のためにその薬を飲むのかよくわかっていない、という方がとても多いようです。私たちは、診断プロセスを、診断名を見つけるためのものではなく、ご本人またはご家族が発達障害だけでなく、その方の強みと弱みを全人格的に理解するためのお手伝いと考えています。困り事や問題行動をなくすために症状を探すのではなく、なぜそのようなことが起きるのか理解したうえで一緒に対応を考えるための出発点と考えているからです。

 そうした診断プロセスを経て、その人にはどういう発達特性があり、どの特性が困り事に関係していて、どう対応するのがよいのか、ADHD、不安やうつ、気分変動などの精神的な問題が環境を調整するだけでは不十分で、専門的な治療を必要としているのかどうか、そうだとすればどの治療を優先すべきか、などを切り分けます。

 私たちの心理治療は行動をベースにしたもの、あるいは認知行動療法をベースにしたものですので、方法を身につけていただくと、あとあと予防にも役立ちます。それでも投薬治療を追加する必要がある場合には、お薬の処方を検討します。私たちは、薬物治療を安易に行わないという国際的なガイドラインに準拠した治療法を提供します。

 長期的なビジョンに立って、その人に最善と考えられる治療法をご提案し、患者様ご本人だけでなく、必要があれば、ご家族の方の心の健康をサポートしたいと思います。診断後のサポートとしては、発達の過程や人生の節目にフォローアップのアセスメントを行い、支援計画のアップデートを行います。またもっと継続的に相談していきたいという方へは、さまざまな治療や相談のオプションをご用意し、困ったときに頼りになる羅針盤の役目を果たしていきたいと考えています。その他、療育に関する助言、教育や職場での対応についてのご相談にも応じます。

 当クリニックは、医師のオーダーで心理士がカウンセリングを行うというよくある分業制ではなく、医師と心理士の協働での診療というスタイルをとっています。これまでの実践を通して、一つのチームとして患者さんとかかわることで、精神医学や心理学、それぞれの良いところを最大限に発揮し、不足するところは補い合うことができると確信するからです。医師と心理士(必要に応じて1名~2名)が原則として一緒に本人あるいは家族面接に入り、その後のカンファレンスの中でそれぞれの観点から一定の結論に至るまで話し合いを尽くします。これが私たちの強みです。

 私たちが目指しているのは、発達障害であれ、発達障害には該当しないいわゆるグレーゾーン(診断閾下)であれ、包括的な発達特性に対する理解により、また家族関係の見直しを通して、その方の長所を伸ばし、生きる力と意欲を高め、心の健康を守り、不安やうつを予防し、ちょっとした挫折にもくじけないポジティブな生き方を支えていくことです。そういう「メンタルヘルスの専門家集団」でありたいと考えています。つまり、その方の発達特性を単にノーマライズすることを目標としてはおりません。

 私たちは、当院公式Twitterから、主に院長の学術講演や学会講演、研修会での講演、執筆情報などの情報発信を行っています。さまざまな情報が溢れて何を信じてよいのか分からなくなり易い今日、誤った情報に惑わされないために自身が学び、科学的なリテラシーを高めることはとても重要です。できるだけ一般の方にも分かり易いように、知っていただきたい情報をお届けできるように努めています。飛躍的に進歩しつつあるこの領域における研究活動にも引き続き携わりながら、研究成果を自らの臨床実践に活かしたり、臨床実践から次の研究課題につなげたり、日々の学びを大切にしてまいりたいと思っています。

院長 神尾 陽子