日本での標準値

 日本版SDQの標準化は、4歳から18歳までの広い年齢範囲を網羅し、独立して集められた3つの児童集団(就学前幼児集団、小中学生集団、高校生集団)の親評定、教師評定、そして自己評定(高校生集団のみ)のデータを元に行いました。

【標準化サンプル】


1.就学前幼児の標準化サンプル(東京)1)

親評定SDQの標準化サンプルは、東京西部にある多摩北部地域(小平市・西東京市)に所在する幼稚園・保育園78施設のうち協力の得られた64園を通じて、在籍する年中児から成ります。年中児2953名の保護者に調査協力を郵送で依頼し、返送があった1406名のうち,年齢、性別、SDQ25項目に欠測がない1335名(男児687名、平均年齢4.90±0.30歳,女児648名、平均年齢4.90±0.31歳)の親評定データを標準化に用いました。

教師評定SDQの標準化サンプルは、親の同意を得たうえで同地域内の協力が得られた57園106クラスの担任から集められました。各担任には所定のルールに基づいてそれぞれのクラスから男女2名ずつ計4名の児童を選んでSDQ項目について評定してもらいました。返送があった422名のうち、年齢、性別、SDQの全項目に欠測のない402名(男児201名、平均年齢4.90±0.21歳,女児201名、平均年齢4.94+0.25歳)の教師評定データを標準化に用いました。


1) 飯田悠佳子, 森脇愛子, 小松佐穂子, 神尾陽子:わが国の就学前幼児(4-5歳)における保護者及び担任評定にもとづくStrength and Difficulties Questionnairenの標準化. 平成25年度厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 精神障害分野「就学前後の児童における発達障害の有病率とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究(研究代表者:神尾陽子)」総括・分担研究報告書,pp33-41,2014年3月. [ PDF ]



2.小中学生の標準化サンプル(全国)2)

親評定SDQの標準化サンプルは、10都道府県の教育委員会を通じて、協力の得られた148の小学校および71の中学校の通常学級在籍児童から成ります。小学校1年生から中学校3年生までの全児童・生徒(7-15歳)の保護者にSDQ全項目の回答を依頼し、年齢、性別、SDQ25項目に欠測のない24,431名のデータをもとにしています。回答者は、母親(91%)、父親(8%)、両親(0.7%)、その他(0.6%)という構成でした。

教師評定SDQの標準化サンプルは、保護者の同意のもとに担任教師に回答を依頼し、211校の教師から集められました。年齢、性別、SDQの全項目に欠測のない7885名のデータを標準化に用いました。


2) Moriwaki A, Kamio Y (2014). Normative data and psychometric properties of the Strengths and Difficulties Questionnaire among Japanese school-aged children. Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health.2014, 8:1.doi: 10.1186/1753-2000-8-1  [ PDF ]



2.高校生の標準化サンプル(全国)

調査対象は、日本医療研究開発機構障害者対策総合研究開発事業「児童・思春期における心の健康発達・成長支援に関する研究(平成29 年度~)」の主任および分担研究者の勤務地である1都5県(東京都・奈良県・富山県・石川県・高知県・宮城県)に所在する高校の全在校生としました。

全日制高校は学校ごとに生徒数がかなり違うのでそのバランスを考えて、全国学校総覧(2017年版)をもとに各学校の生徒数に比例して抽出確率を決め、その数だけ学校を乱数により70校を抽出しました(生徒数が多い学校ほど選ばれる確率が高くなります)。定時制高校はいずれも小規模なため、単純無作為抽出法を用いて70校を抽出しました。協力の得られた高校(全日制8校、定時制11校)を通じて、保護者に調査協力を依頼し、郵送で回収された親評定および本人評定SDQのうち、親評定SDQの標準化には、学年、性別、SDQ25項目に欠測がない全日制高校生徒1418名(依頼した全数の30.8%)、定時制高校生徒233名(28.0%)のデータを、本人評定SDQの標準化には、学年、性別、SDQ25項目に欠測がない全日制高校生徒1415名(30.7%)、定時制高校生徒140名(16.8%)のデータを用いました。教師評定SDQの標準化サンプルは、担任が保護者の同意のある生徒から所定のルールに基づいて生徒数のほぼ1/3となるよう選んで評定してもらい、学年、性別、SDQ25項目に欠測がない全日制高校生徒701名(67.2%)、定時制高校生徒233名(85.7%)のデータを用いました。

【平均得点(標準偏差):年齢別、男女別】


SDQの得点は、他のメンタルヘルスに関係する評価尺度と同様、子どもの年齢や性、そして誰が評定するか(親、教師、あるいは本人)によっても変わります。質問紙一般に言えることですが、子どもの置かれている環境や、評価する者の実態把握の程度の違いによって評価に1ランク程度の差があることはしばしばあります。だからこそ、個別のケースについては、可能な限り、親、教師、本人からも回答を得、さらにSDQ以外の情報も集めたうえで、総合的に判断することが大切です。見立てに迷うようであれば、メンタルヘルスの専門家の判断を求めることが望ましいです。

研究目的では、上位10%を臨床レベルの問題の可能性があるとみなす慣習がありますが、日本ではまだ〇点以上だと臨床的に問題があるかどうかについては、検証されていませんので、得点だけでその子どものニーズについて判断してはいけません。こうしたことを踏まえて、開発者との話し合いの結果、現時点では日本版ではカットオフを推奨しないことになりました。

下記の表は、4歳から18歳までの児童青年のSDQ得点を、男女別、年齢帯別、評定者別に示しています。どの年齢帯にも男女による違いのパターンが共通してみられます。親評定では情緒の問題以外の困難さは男児の方が女児よりも高いと評価されています(情緒の問題ではその逆に女児でより困難と評価されています)。一方、教師評定では、女児の困難さは男児よりも低く評価される傾向にあります。また男女とも年齢が上がると、困難さは低くなる傾向がみられます。

特定のお子さんのメンタルヘルスについて判断する際には、男女別、年齢帯別の平均得点を参照すれば解釈の手がかりとして役に立つでしょう。高校は、全日制と定時制の学校種毎に男女別の平均得点をお示ししています。学校種別によって、生徒のメンタルヘルスに関するニーズが違うことがわかります。

【パーセンタイル表】


下記の表は、4歳から18歳までの児童青年のSDQ得点の度数分布を、男女別、年齢帯別、評定者別に示しています。開発者らによるウェブサイトでも、世界各国の標準値とともに日本の児童の標準値が公開されています(http://www.sdqinfo.com/norms/JapaneseNorms.html

SDQ総合得点および各下位尺度得点の男女別分布(日本全国の小中学生25075名)


図1は、日本全国の小中学生25075名についての親評定SDQ 得点(総合的な困難さ、情緒の問題、行為の問題、多動・不注意、仲間関係の問題、向社会的な行動)の度数分布を男女別にグラフで示したものです1)。上で述べたように、男児の親は、行為の問題、多動・不注意、仲間関係の問題などの困難さを、女児の親よりもより大きく評価し、女児の親は、情緒の問題を、男児の親よりもより大きく評価するパターンに気づかれるでしょう。

図1 SDQ総合得点および各下位尺度得点の男女別分布(日本全国の小中学生25075名)


1) 森脇愛子, 神尾陽子(2013). 我が国の小・中学校通常学級に在籍する一般児童・生徒における自閉症的行動特性と合併精神症状との関連. 自閉症スペクトラム研究, 10 (1), 11-17.