学校での実践例
子どもの5人に1人がメンタルヘルスの問題を抱えています。そしてその影響は、子どもの毎日の生活の質に影響するだけでなく、長く続くと、学習不振、不登校、非行などの要因になるなど、人格の発達に傷を残しかねません。さらに、たとえ精神医学的な診断レベルよりも症状が軽度であっても、メンタルヘルスの不調が続くと成人後の社会的機能に広く悪影響を及ぼすこともわかっています。医療機関を受診するケースは、すでに診断閾値を超えた状態が何年も続いてからのことがほとんどです。それというのも、多くの場合、子どもたちのメンタルヘルスの不調は、親や学校教師から「問題行動」として捉えられがちで、「健康上の問題」としては理解されていないためです。メンタルヘルスの問題は、できるだけ早期に的確に把握し、適切に対応することが回復やその後の社会的機能の面でも大切であることは多くの研究からわかっています。
平成28年度に改正された学校保健安全法施行規則では、学校での健康診断を効果的に活用するために「保健調査」の充実が明記されました。これまで保健調査は小学校入学時及び必要と認めるときにのみ行われていましたが、小学校,中学校,高等学校及び高等専門学校(特別支援学校を含む)において全学年で実施することになったのです。保健調査の実際の運用は地域、学校に任されていますので、この機会にぜひ保健調査にメンタルヘルス関連の調査項目を取り入れて、心の健康への早期対応を強化する学校が増えることを願っています。
調査項目は、日本の子どもで検証がなされた信頼性と妥当性のある尺度を用いる必要があります。また簡便であることもスクリーニングでは重要です。SDQは、親の視点、教師の視点、そして本人の思いを比較することができ、簡便ですが、そこからわかる情報は豊富です。学校と親との建設的な話し合いの際の根拠として役に立ちますし、学校でのメンタルヘルス対策の効果指標として調査の基礎データともなりえるものです(参考文献1))。
次に児童の行動や情緒問題のスクリーニングにSDQを活用した事業例2)を紹介します。
学校での児童のメンタルヘルス対策事業における活用例2)
本事業は、児童の困り感に早期に気づき予防的な対応を行うことで、児童のメンタルヘルスの向上を目的に実施されているものです。対象は小学校5年生児童です。内容は、(1)保護者と児童が調査票に回答(SDQ25 問に加え、生活や健康面に関する質問10問から構成)、(2)判定カンファレンス、(3)事後支援、から成ります。判定カンファレンスでは、調査票への回答結果を参考に、全ての対象児童の支援の必要性や具体的な支援内容を検討します。本事業におけるSDQ活用の意義は、次の4点に集約されます。
① 得点に数量化されることから効率的に支援の必要性をスクリーニングできること
② 客観的な指標があることで保護者と担任が児童の様子を共通理解しやすいこと
③ 児童の回答からは、家庭や学校で表面化しにくい問題への気づきにつながること
④ SDQ結果を読み取る作業を通じて、担任の子どもの行動や情緒問題のアセスメントスキルが向上すること
このような学校全体での取り組みの実践を通して、SDQは学校現場における児童の行動や情緒問題のスクリーニングツールとして役に立つと考えられます。
(問い合わせ先:事業協力者 京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学 全 有耳)
1) 神尾陽子(2017). 子どもの心の健康を学校で育て、守る:教育と医療を統合した心の健康支援. 叢書23子どもの健康を育むために-医療と教育のギャップを克服する-.pp.99-114. 編集 神尾陽子, 桃井眞里子, 児玉浩子, 山中龍宏, 高田ゆり子, 衞藤隆, 原寿郎, 水田祥代,日本学術協力財団, 東京, 2017.3.28.
2) 全有耳(2018). 地域機関との連携による学校における思春期メンタルヘルス対策. 特集・発達障害支援における包括的かつ連携した多領域支援―医療・教育・福祉の垣根を超えるために-. 発達障害研究, 40(4-1), 299-304.