子どもの成長に合わせた
メンタルヘルスのアセスメントの必要性


 米国の研究によると,二人に一人は生涯に何らかの精神障害に罹患し,うつ病や不安障害の約半数が14歳までの児童期に最初の症状を経験することがわかっています(Kessler et al., 2005).子どものメンタルヘルスの問題は、残念ながら、その多くが「問題行動」として、適切なアセスメントを受けることなく、したがって子どもたちは必要な支援を受けられずに過ごしているという現状があります。子どものメンタルヘルスの問題への対応は、成人後のメンタルヘルスを左右しますので、子どもの発達に合わせてきちんとアセスメントし、一人一人に合った対応策を講じる必要性があります。

 このサイトでご紹介するSDQ(Strength and Difficulties Questionnaire:子どもの強さと困難さアンケート)は、簡便なスクリーニング式質問票で、幼児期から青年期にかけて、適応と精神的健康の状態を包括的に評価できることから、世界中の多くの国々で使用されているものです。

 SDQの特徴を知っていただければ、メンタルヘルスの専門機関以外にも、かかりつけ医1,2)や学校3) などで心の健康のスクリーニングとして用いることもできます。家庭でしかわからないこと、学校でしかわからないこと、また本人に聞かなくてはわからないこともたくさんあります。そうした子どもの見せるいろいろな顔を統合して、その子ども全体を理解することが支援の基本です。そして子どもが抱える心の問題に対して、エビデンスに基づく健康支援の観点からの初期的な対応を受けるという経験は、その子どもの長い生涯のなかでも大切な自己管理の学びとなるはずです。

 そこでこのサイトでは、日本での標準化が完了したSDQについてご紹介いたします。


1) 神尾陽子, 齊藤彩,原口英之(2018). 発達障がい児に対する早期アセスメントと早期対応. 特集 発達障害―小児科での具体的な診かたと多職種連携. 小児科59(6), 5月臨時増刊号. 東京,金原出版, pp.871-877, 2018.5.

2) 神尾陽子, 全有耳(2018). 自閉症スペクトラム障害.小児科編集委員会編, 思春期を診る!小児科59(5), 5月臨時増刊号. 東京,金原出版, pp.549-556, 2018.5.

3) 神尾陽子(2017). 子どもの心の健康を学校で育て、守る:教育と医療を統合した心の健康支援. 叢書23子どもの健康を育むために-医療と教育のギャップを克服する-.pp.99-114. 編集 神尾陽子, 桃井眞里子, 児玉浩子, 山中龍宏, 高田ゆり子, 衞藤隆, 原寿郎, 水田祥代,日本学術協力財団, 東京, 2017.3.28.


このサイトで紹介する内容は、以下の助成を受けて行った研究成果にもとづくものです。

 平成20‐22年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)研究課題名「1歳からの広汎性発達障害の出現とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究」(研究代表者 神尾陽子)

 平成23-25年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業 精神障害分野)研究課題名「就学前後の児童における発達障害の有病率とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究」 (研究代表者 神尾陽子)

 平成29-30年度日本医療研究開発機構障害者対策総合研究開発事業委託研究開発費 研究課題名 「児童・思春期における心の健康発達・成長支援に関する研究」(研究開発代表者 水野雅文(東邦大学教授)、分担研究開発課題名「児童・思春期の心の健康教育・診断・支援手法研究」研究開発分担者 神尾陽子(お茶の水女子大学客員教授))

 いずれの研究も国立精神・神経医療研究センターの倫理委員会の承認を受けて行われました。

 本サイトは日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業「児童・思春期における心の健康発達・成長支援に関する研究」(研究開発代表者 東邦大学精神神経医学講座教授 水野 雅文)の分担研究「児童・思春期の心の健康教育・診断・支援手法研究」研究開発分担者 神尾陽子(お茶の水女子大学客員教授))の一部として平成30年度調整費にて作成されました。