羅針盤としての発達障害クリニック


 発達障害のある方がその人らしく生きていくための特性理解を、当クリニックはサポートいたします。発達障害は目に見えて直ぐにそれと分かるということがないので、ご本人やご家族が気付かないまま生きづらさを抱え、社会から得られるはずのサポートの無い中で悩みを深めている場合が多いのです。発達障害の診療が目指すものは、発達障害の症状をゼロに近づけることではありません。多面的な特性理解により、その方の長所を伸ばし、生きる力と意欲を高め、心の健康を守り、不安やうつを予防し、ちょっとした挫折にもくじけないポジティブな生き方を支えていくものだと、私たちは考えています。

 当クリニックは、ゆったりとくつろいだ雰囲気のなかで、困っている症状だけでなく日常のご様子をうかがい、その方の特性を理解したうえで、今、支援が必要なこと、そしてこれから支援が必要なことを切り分けて、長期的なビジョンを共有しつつライフステージに沿った支援計画(羅針盤)作りのお手伝いに力を注ぎたいと考えています。

 当クリニックの専門家チームでご提供するお手伝いは、長い人生からみるとスポット的と言えるかもしれません。私たちは当クリニックの役割を、発達の過程や人生の節目に焦点を当てた、短期かつ集中的なサポートと位置づけ、専門的立場からの助言を通じて精一杯ご本人とご家族への力になりたいと考えています。つまり、「発達障害」との診断を初めて受けた時や、社会人としての新しい生活を始めた矢先に何らかのつまずきを覚えた時などにお役に立ちたいと思うのです。そして一緒に作り上げていく、その方の「発達障害」とそれに関連する心の健康についての羅針盤を、学校や地域、職場など身近におられるかかりつけ医や支援者の方にも共有していただけるような繋ぎの役目を果たしていきたいと考えています。

お子さまとご家族に


 最近は幼児期の早い時期に診断を受け、専門的な支援を利用される方が増えてきました。早期からの支援は発達障害支援の基本です。個人差がありますが、早い時期から途切れずに支援を受けると、長い人生を通して良い結果につながることは多くの研究が明らかにしています。最初は、家族も地域も「この子はどうしてこんなことをするのか、どうしてこんなことができないのか」という見方に傾きがちですが、的確な特性理解とそれに基づく支援を通して、お子さまのありのままの姿が見えてくると、お子さまとの関わり方も変わってきます。

 お子さまの特性理解は家族だけでなく、学校や地域のかかりつけ医、支援機関などお子さまとかかわりのある方々の間で、共有されることがとても大事です。子どもは自身がありのままに理解されているという安心感をしっかり感じると、困難を乗り越える勇気を持ち、安定した気持ちを保って努力を続けることができます。少々の失敗にめげず、自身の力を信じてポジティブに生きる人へと成長できるでしょう。当クリニックは、お子さまの理解を周囲のみなさまと共有できるように、ご家族への説明とサポートを大事にします。

子どもとおとなの移行期(註)


 この時期には、発達障害の有無にかかわらず、心身の大きな変化があります。家族との関係も変化していくことが自然なのですが、家族にとっては良い変化も不安に感じられるかもしれません。また思春期以降は不安や気分の変化など精神のバランスをくずすケースもあり、すべて問題行動とひとくくりにするのでなく、何が治療を必要とする行動で、何は見守ることこそ大事なのか、そのあたりを理解するために総合的な心の健康チェックを定期的に受けていただきたいと思います。この頃になると、一般的に児童あるいは小児としての支援が終了し、成人としての支援を受けることになりますが、その移行はまだ連続的にシームレスになされる体制が整ってはいません。

 それゆえに発達段階としての移行期という意味のほかに、本人が公共のサービスを適切に利用できるような心の準備をすすめさせることが大切になります。そのために、この時期の方々に対して、当クリニックでは特に特性理解を中心とする心理教育的なアプローチを行うことで、個別のニーズを探って本人の心の準備をサポートしてまいります。また、必要なライフスキルについてのトレーニングのお手伝いもしてまいります。

 註)移行期をさすのによく用いられる言葉に「思春期」がありますが、これは医学的には身体的な第二次性徴の発現の始まりから終わりまでと、身体的に子どもがおとなになるまでの中間にある時期をさしており、栄養状態、食生活などライフスタイルや個人要因によって個人差があります。また「前青年期」と呼ばれる心理社会的な発達段階(だいたい10歳前後から14歳前後)とは必ずしも一致しません。この時期の変化の背景に脳の成熟が起きており、認知、感情、自己調整などの面でもおとなに近づくと考えられています。

おとなの方に


 職場での対人関係の問題や仕事上の失敗の繰り返しなどから、おとなになって初めて発達障害の可能性を指摘され、精神科の受診を希望する方が増えています。子ども時代から学校適応に困難があった方の場合は、これまでに多くの相談機関や医療機関を経験されているでしょう。あるいは家庭や学校では問題が目立たなかった方の場合も、発達障害の指摘を受けるまでにすでに複数の専門家を経ていることが少なくありません。漠然とした生きづらさを抱え、社会適応の努力を重ねてこられた結果、疲弊し、不安やうつなどの精神症状が出てきてしまいます。自身の特性に気づき、あらたな希望を見出すまでにはどうしても長い道のりがかかってしまうのです。

 おとなのケースでは、長くつきあうことになる発達障害の特性と、治療可能な不安やうつなどの症状とを整理することから始める必要があります。

 おとなにとっては特に、発達障害の特性も大切なアイデンティティの一部となっているのではないでしょうか。特性理解は、気づかなかった自身についての深い理解に役立ちます。また現在、そして未来に目を向ける心の余裕も生まれてくるでしょう。ご家族には、これまでの育てにくさがなぜだったのか理解が深まり、自責やとらわれから解放されて、現実的なサポートについて考えたり、新しい関係性を築くための歩みをすすめる希望が生まれることでしょう。

 当クリニックでは、ゆったりとくつろいだ雰囲気のなかで、これまでの人生での生きづらさ、それをどう乗り越えてきたのかなどについて聴かせていただき、ご自身の発達障害の特性に加えて、精神医学的、心理学的な観点から、現在の問題について総合的な評価と診断を行います。この結果をもとに、私たち多職種チームは、人生の節目に私たちのクリニックにおいでいただいた方のこれからの人生での舵取りに向けて、ご自身の羅針盤つくりをお手伝いします。何回かの来談という限られた時間のなかではありますが、ご自身がその後、心の健康をご自身で守っていくための治療パッケージもご用意しています。一緒に作り上げた羅針盤をかかりつけ医や身近な支援者の方に引き継いでいけるように書類作成もいたします。

「もし、ぱちりと指をならしたら自閉症が消えるとしても、私はそうはしないでしょう―なぜなら、そうしたら、わたしがわたしでなくなってしまうからです。自閉症はわたしの一部なのです。」
 テンプル・グランディン (出典 オリヴァ-・サックス:火星の人類学者:脳神経外科医と7人の奇妙な患者. 吉田利子(訳), 早川書房, 東京, 2001.)註)テンプル・グランティンは自閉症を持っており、多数の著書や講演活動を通して啓発を行っている。

おとなの方に

発達障害のある女性


 これまで発達障害は男性が注目されていたため、発達障害の女性の支援ニーズは見逃されてきました。それは決して女性の発達障害が軽いからではなく、女児の言語や社会性の発達が男児のそれよりも良好で、衝動性が男児と比べると低いために、発達障害の症状をカモフラージュされてしまうからではないかと考えられています。発達障害のある成人女性は、異性関係、結婚、育児などに際して、男性では経験することのない困難を抱えることが多いですが、こうした女性に固有なニーズが十分に理解され、対応されているとは言えません。特に、これまでの子育て支援は、ステレオタイプな母親像にもとづく支援が依然支配的であり、母親の発達特性やパーソナリティに注目した個別化した支援はあまり浸透していません。その結果、発達特性のある母親には必要な支援が得にくい状況になっています。子どもを深く理解し、そして養育者自身の特性理解をしたうえで、親子に合った子育ての進め方についての羅針盤をつくり、子育てを応援いたします。

 また、発達障害のある女性に対する性暴力や性に関係する問題は外部から見えにくく、精神的な後遺症は当人の問題行動と誤解されやすいことに注意して、スタッフが発達障害のある女性のニーズにていねいに対応いたします。なかには性同一性障害といった問題とも関連するケースも考えておかねばなりません。また、そのお子さんのケースも、早期支援の機会を逃さないよう、表面的な問題に隠れがちな発達障害をきちんと評価、診断いたします。

 参考となる記事:神尾陽子「見逃されやすい女性の発達障害-周囲の気付きを高めることが重要」(Medical Tribune 医療ニュース2019.3.6.)

クリニックの特徴

① 自由診療のクリニックです


 発達障害の支援の原則は多職種連携です。医療はその連携のなかで、早期の診断を行い、特性理解のもとで適切な支援につなぐこと、そして後に現れてくる併存症状の診断と早期治療がその主要な役割と考えます。適切な療育や教育の重要性は明らかになっていることから、早期診断の意義が大きいのです。また発達障害の方の生活の質を下げる大きな原因は発達障害そのものよりも、併存するさまざまな症状と関連してくるので、その早期診断と早期治療はとても重要です。問題が慢性化してからではなく、早期に特性理解に時間をかけることが、長い目でみて個人的レベルにおいても、社会全体の医療負担という観点においても、効果が大きいという研究報告は増えています。

 日本では、国レベル、学会レベルでの「発達障害診療ガイドライン」はまだ存在しません。発達障害のベストプラクティスを行うには、多職種にわたる専門職の配置が難しいこと、一人の患者さんに十分な時間を割かなければならないこと、などの課題があり、現在の保険診療体制のなかではきわめて困難な状況があります。

 当クリニックは、日本の発達障害のベストプラクティスを目指します。海外ではプライベートクリニックが、先進的医療を提供し、そこで蓄積されたエビデンスが公の医療の中で共有されていくのが一般的です。それを日本でもできるようにしていきたいと考えます。それゆえ、当クリニックは、多職種連携をベースとする丁寧なアセスメントに、しっかりと時間をかけて、本当に必要な治療や支援が何なのかについて、利用される方々やそのご家族、そして支援者の方々と共有していくことを目指します。また併設する研究所では、このような私たちの手法を実証的に検証し、質の良い臨床から生まれたエビデンスの社会への発信も行なっていきます。(診療費用はこちら

② 薬を使わない治療を徹底的に大切にします


 ASDやADHDの治療は、環境の調整と社会的支援、心理的治療(療育トレーニングなど)、そして必要に応じて薬物治療などを組み合わせる総合的なアプローチでなくてはなりません。ASDそれ自体に対して有効性が確認された薬物治療はまだありませんし、ADHDの治療も、まず最初に試すべきは、環境の調整と社会的支援、薬物を使わない心理的治療となります。いずれの治療もそれぞれにメリットとデメリットがありますので、その方にとって最も有益となる治療計画を立てることを大切にいたします。薬物治療が必要と判断された場合は、保険診療の医療機関をご紹介いたしますが、ご希望があれば、薬物治療の導入までのお手伝いはさせていただきます。

 国際的に注目されているイギリスの国立医療技術評価機構(NICE: The National Institute for Health and Clinical Excellence)は、ADHDの診療についてのガイドライン(下記参照)の中で、ニーズに応じてホリスティック(全体的, holistic)な治療アプローチを推奨しています。またASDの診療についてのNICEガイドラインでは、エビデンスに基づいて環境の構造化などの調整やコミュニケーションを改善する療育について、言及しています。また、ASDの主要症状に対して、向精神薬、抗うつ薬、抗けいれん剤、除去食(グルテンフリーなど)を用いるべきでない、と述べています。もちろん、ASD症状以外、たとえば併存するてんかんやうつ症状などの治療目的の場合は投薬も必要となります。今日、薬物治療を開始する前に、適切な診断と適切な環境調整や心理社会的支援を行ったうえで、それらが効を奏さないことを確認してから、薬物治療に入っているケースは少ないようです。薬物治療が有効なケースは多数おられますが、NICEガイドラインが推奨するような手順を踏まないで安易に始めることは避けるべきと考えています。適切な環境調整や心理社会的介入で効果がみられない場合、あるいは併存症状が重症な場合に、薬物治療を検討する、というのが当クリニックの方針です。

参考となるガイドライン

③ 診療のオプションは有限回(はじめと終わりをはっきりさせる)にこだわっています


 当クリニックでは、その方とご家族が本人の特性やニーズを理解して、みずから必要な支援を求めることができるようになること、を目標としています。言い換えると、ご本人、ご家族、そして身近な支援者の方にその方に合った支援ニーズについての羅針盤を手渡しすることを目標としているのです。そのため、当クリニックでのサービスはあらかじめその方に合ったゴールを相談して決め、一緒に取り組みます。

④ 地域の支援への引継ぎに力を入れています


 理想的な発達障害支援は、その方が暮らす地域の多職種の支援者チームが、連携して対応してくれることです。かかりつけ医、地域の福祉サービス担当者、幼稚園・保育所、学校、職場、そして地域の専門機関などは、相談や紹介などライフコースに応じたさまざまなニーズに対応をしてくれることが期待されています。残念ながら、学校で受けられる支援には量と質ともにまだ課題が大きく、地域差も認められるのが現状です。

 当クリニックは、発達障害専門クリニックとして、当事者の支援ニーズについての情報提供を積極的に行うことで、地域での支援がスムーズになるお手伝いをいたします。それがご家族やご本人が担当者に説明しやすい資料の作成や、必要に応じて、学校向けの意見書やかかりつけ医向けの診断書などを作成させていただく目的です。

 医療に関しては、今日では専門機関だけでなく地域医療を担う「かかりつけ医」の関与が期待されるようになってきました。厚生労働省は平成28 年度から「かかりつけ医等発達障害対応力向上研修」(以下、かかりつけ医研修)事業をスタートさせ、多くの自治体では地域の医師会の協力のもとでかかりつけ医研修を実施しています。かかりつけ医の方からのご紹介の場合、当クリニックはセカンドオピニオンを提供いたします。

参考:https://www.ncnp.go.jp/nimh/dd_taioryokukojo_H29.html(「かかりつけ医等発達障害対応力向上研修テキスト」(かかりつけ医研修の講師向け)は、当クリニック神尾陽子が研究代表者として行った平成28-29年度 障害者対策総合研究事業「国、都道府県等において実施する発達障害者診療関係者研修のあり方に関する研究」において作成したものです。ここからダウンロードできます。)

神尾陽子(2017). 発達障害児・者の思春期・青年期の社会的課題.日本医師会雑誌, 145, 2337-2340.
五十嵐隆, 平岩幹男, 神尾陽子, 中邑賢龍. (2017): 座談会. 発達障害児・者を支援する.日本医師会雑誌, 145, 2321-2332.

⑤ 子どもからおとなへの支援の移行(トランジション)をお手伝いします


 最近は、早期支援が普及し、子ども時代には安定した学校生活を送っている方も増えてきました。しかし思春期を迎えると心の健康問題を抱える方も出てきます。周囲の人に心の危機は見えにくいものです。この時期の心の健康を育むための原則も早期発見、早期対応です。後伸ばしにせず、早めに心の健康診断を行うことで、心の健康を早く取り戻すのに役に立ちます。